2026年10月20日

1.認知症は予防できますか?
前回のコラムでは、篠栗町で行った認知症の講演会について紹介しました。
今回は、その講演会でお話しした「認知症の予防」について、実際に使用したスライドを交えながら説明したいと思います。
認知症は有名人でも、社会的に成功した人でも、お金持ちでも、誰でも発症する可能性があり、どれだけ気をつけていても認知症になることはあります。
認知症を完全に防ぐ方法があるわけではありませんが、最近の研究では、生活習慣や生活環境を改善することで、認知症になるリスクを下げられる可能性があることがわかってきています。
今回は、認知症予防において、特に大切だと考えている「生活習慣病の管理」と「脳を使い続けること」の2つを中心に紹介します。
2.どんな人が認知症になりやすい?
認知症の危険因子(リスク因子)は、大きく分けると「変えられないもの」と「変えられるもの」があります。変えられないもには年齢、遺伝的要因、家族歴などがあります。

実は年齢は認知症の最大の危険因子で、65歳以降は年齢とともに認知症の頻度が増えていきます。
また、アルツハイマー病のリスクとなる遺伝子もありますし、親兄弟姉妹に認知症の方がいる場合には、発症リスクが高くなることが知られています。
変えられないリスク因子もあるからこそ、変えられるリスク因子をできるだけ減らすことが大切だと思います。
3.14項目の認知症の危険因子
2024年、世界的に有名な医学雑誌『Lancet(ランセット)』から、認知症の危険因子についての報告が発表されました。
この報告では、改善できる可能性のある14の危険因子が挙げられています。

注目したいのは、これら14の危険因子への対策によって、理論上、認知症の約45%を予防したり、発症を遅らせたりできる可能性があると推計されていることです。
個人のリスクが45%減るというわけではありませんが、きちんとリスク因子を減らせば予防につながるということを示唆しています。
日常生活で特に意識したいことを大きく2つに分けて説明します。
4.認知症予防 ① 生活習慣病をきちんと管理する

リスク因子のうちで赤で示した、糖尿病、高コレステロール、喫煙、肥満、高血圧などは全て、生活習慣や生活習慣病に関わる因子です。
生活習慣病があると心筋梗塞や、脳の血管の病気である脳梗塞や脳出血になりやすいことが知られていますが、実は認知症とも関係しています。
脳梗塞を起こすと、脳の一部が傷つき、認知機能が低下することがあります。また、症状のでない小さな脳梗塞や細い脳の血管の障害が少しずつ脳に蓄積し、認知機能に影響することがあります。さらに、糖尿病や高血圧などは、脳の血管の障害だけでなく、アルツハイマー病の発症リスクとも関連することが報告されています。
そのため、血圧、血糖、コレステロールを適切に管理することは、認知症予防に重要です。禁煙、過度の飲酒を避けること、適度な運動、体重管理も大切です。
5.認知症予防 ② 脳を使い続けること
もう一つ大切なのが、外からの刺激を受け、脳を使い続けることです。

青で示したうつ病、教育歴、社会的孤立、視力障害、難聴は、思考や外出、社会活動の機会に関係しています。
視力が低下すると、読書や趣味、外出などが億劫になり、活動範囲が狭くなることがあります。難聴や視力障害がある場合は、必要に応じて補聴器を使用したり、白内障など治療できる病気に対応したりすることは、認知症予防の観点からも大切です。
また、社会的孤立も認知症の危険因子の一つです。一人暮らしでも、友人と会ったり、趣味を楽しんだり、地域の活動に参加したりすることは重要です。家族と暮らしていても、ほとんど人と会話せず、社会とのつながりが少ない場合は会話の機会を増やすことが大切です。
うつ病も認知症との関連が指摘されています。ただし、うつ症状が認知症の初期症状として現れる場合もあり、その関係は単純ではありません。気分の落ち込みや意欲の低下が続く場合には、我慢せず相談していただきたいと思います。
大切なのは、人と話すこと、外出すること、何か役割を持つことなどを通じて、脳に刺激を与え続けることだと思います。
6.最後に
認知症の予防について、今回は講演会で使用したキーとなるスライドを用いて紹介しました。
認知症は完全に予防できる病気ではありません。しかし、発症するリスクを下げるために、私たちが日常生活でできることはたくさんあります。
私が特にお伝えしたいのは、次の2つです。
① 高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を管理し、脳を守ること。
② 人との交流や外出、運動などを通じて、脳を使い続けること。
今回の講演会も、参加者の皆さんにとっては人との交流や新しいことを学ぶ機会になり、私自身も講演の準備を通じてたくさん頭を使いました。こうした活動を続けることも、認知症予防につながるのではないかと思います。
参考文献
・Livingston G, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. Lancet. 2024;404:572–628.
・World Health Organization. Risk reduction of cognitive decline and dementia: WHO guidelines, second edition. WHO; 2026.
おくだ脳神経外科クリニック
院長 奥田 智裕 (日本認知症学会認定専門医)